小山内 裕

ブックルックチームの新型コロナウイルス感染回避対策の紹介 (後編)

前回の記事「ブックルックチームの新型コロナウイルス感染回避策の紹介(前編)」では、具体的な対策の紹介の前に新型コロナウイルスの経緯を辿りました。
今回はその経緯と重ね合わせながら対策を紹介します。

2020年1月

1月は、武漢から来たツアー客を乗せたバスの運転手から広がった感染事例や、個人タクシー組合の屋形船での感染事例が相次ぎました。世の中もパンデミックは避けたい、中国の武漢のようなことは避けたいと思っていたころです。
その1月下旬、ブックルックチームでは手洗いの徹底を呼び掛け始めました。
特に電車など多くの人と接した後は、オフィスへの入室前に手洗いを必ずするようにしました。
これが最初の対策です。

2020年2月

2月、大型豪華客船 ダイヤモンド・プリンセスでの船内感染が発生。ウイルスは船内に閉じ込められたままでしたから、陸の上の私たちはまだ楽観的で他人事だったのではないでしょうか。
しかし、2月下旬になると各地で小規ですがクラスターが散発している事態を受け、政府から新型コロナウイルスの感染症対策の基本方針が発表されました。
新型コロナウイルスは飛沫感染だけでなく、閉塞空間でも感染する可能性があるとされていましたので、手洗い、咳エチケットの徹底と、風邪症状があれば外出を控えるというものに加え、イベントの自粛が呼びかけられました。
ちょうどこの数日後にブックルックチームでは送迎会が予定されていました。イベントの自粛は強く要請されるものではなかったこともあり、相当みんなで悩みました。
私も送別会を辞めようと言ったら嫌われるかな、と思いつつも、もし感染者がいたとなればチーム全員が職務を全うすることができなくなってしまうため、リスクを避けるために断腸の思いで中止を指示しました。

その直後、2月27日、安倍晋三総理が全国すべての小中高、特別支援学校について3月2日から春休みまで臨時休校とすることを要請しました。
これには賛否両論が巻き起こりましたが、そこからもわかるように、世の中はまだ新型コロナウイルスに対して楽観的だったと言えると思います。

2020年3月

3月に入ると急速に悪化し始めたように思います。
2月は武漢からの入国拒否に限られていましたが、3月9日には対象が中国全土に広げられました。

ブックルックチームでは、3月中旬までの予防対策強化で感染の広がりを抑えることができるとされることを受け、3月19日までという期限付き(後日延長)で改めて次の対策を指示しました。
・オフィス入室前の手洗いの強制
・2時間ごとの喚起の徹底
・時差出勤の推奨
・10人以上の宴会の禁止

3月10日には、海外からの帰国者は2週間の自宅待機を決めました。

3月下旬には3つの密を避けることが推奨されたのを受け、宴会はすべて禁止としました。

3月30日 首都封鎖の話も出始めました。突然の外出禁止要請などが出され混乱することのないよう在宅勤務を開始しました。
諸事情により全員というわけにはできませんでしたが、社内の人は半分未満になりましたので、座席を移動して人と人の間を開けるようにしました。

2020年4月

4月7日、緊急事態宣言が東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡に発出されました。
お客様と調整し、在宅勤務者をさらに2名増やしました。

さらにブックルックチームに次のように行動制限を呼びかけました。
・改めて3つの密を避けること。
・各自で感染事例やデータを確認し、考え、判断して行動すること。
・人との接触を8割削減すること。
人との接触を削減するには、各自の想像力と工夫が求められます。
例えば、「過去1か月以上(または2週間以上)会っていない人との会う機会を持たない」。クラスターを構成する人が、ほかのクラスターに所属する人と会うことがなければ、感染リスクは限りなくゼロに近づけることができます。
また、高齢者や持病を持っている方との物理的な距離を開け、直接接する時間を減らすために「手紙を書いてみる」。
パソコンやスマホで文章は手軽に入力することができますが、あえて直筆で手紙を書いてみるのも自宅での時間の過ごし方としては有効的だと思います。

まだ終わりの見えない感染の広がり

「いい加減、ここから本気で取り組もうよ!」と言いたいところですが、すでに対策を始めている人は十分万全だと思います。問題はまだ甘く見ている人たちです。
「感染しても大したことない」などと思っている人は、健康はすぐに害さないかもしれませんが、経済的なダメージが巡り巡って必ずやってきます。生活に窮することになる前に、今のうちに行動を起こしましょう。

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ブックルックチームの新型コロナウイルス感染回避策の紹介 (前編)

4月7日、緊急事態宣言が東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡に発出されました。
私が思っていたよりも1週間遅い発出でした。

さて、ここまでの新型コロナウイルスの経緯をたどりながらブックルックチームでの具体的な取り組みを紹介したいと思います。

新型コロナウイルス 日本国内における感染初期の推移

日本国内での初めての感染確認

日本国内での初めての感染確認は1月26日。中国の湖北省武漢市に滞在し、帰国した神奈川県在住の30代の男性でした。

国内でのヒト-ヒト感染

日本国内でのヒト-ヒト感染の初めは奈良県在住の60代男性のバス運転手でした。
1月8~11日 バス運転手は、中国武漢市から来たツアー客を大阪から東京の空港まで乗せた。
1月12~16日 別の武漢からのツアー客を東京から大阪まで乗せた。
1月14日 発症し、医療機関を受診するが検査結果は陰性。
1月25日 新型コロナウイルスの感染が判明

そのバス運転手からの感染が発覚したのが1月23日頃、東京から大阪へ向かったバスに同乗したツアーガイド、40代女性でした。
さらに、1月30日頃、別のツアーでこの60代男性が運転するバスに同乗した20代女性の感染も確認されました。

乗客とバス運転手、バス運転手と感染した女性2人の接触機会はほとんどなく、ヒト-ヒト感染は推測の範囲を出ませんでした。
このとき私は、バス社内は狭いとは言い難く、ゆるい密閉空間なのに感染するのだろうか、と疑問にまだ思っていました。

屋形船での個人タクシー組合の新年会

1月18日、個人タクシー組合の新年会が、100人近くを乗せた屋形船で開かれ参加した。当時は雨が降っていたため窓を閉め切った状態だったと言います。そこに参加した東京都内在住の70代男性の個人タクシー運転手、1月29日に発熱を訴え医療機関を受診、2月13日に新型コロナウイルス感染者として確認されました。
後に、この屋形船に乗船した10数名の感染が発覚した。どうやら、1月15または16日に中国 武漢市からの観光客と接触した参加者から広がったとみられます。

このケースでは密閉された空間での飲食に注目されました。

大型豪華客船 ダイヤモンド・プリンセスでの船内感染

3,711人の乗員乗客のうち712人が感染し、7人が死亡した事例です。
2月1日 香港で下船した男性の感染が判明
2月2日 集団感染リスクが示されていたが船内でさよならパーティーが開催された。
2月3日 横浜港に寄港するが2週間の隔離が始まる
2月6日 船内で15人の感染者が判明
2月29日までに700人超の感染を確認しました。

あまりの人の多さに検査は何日にも渡って行われました。また狭い部屋から出ることが許されずストレスが溜まったり、運動不足になったり、思わず何日間も足止めされ持病の薬が切れてしまうなど、新たな問題が発生しました。

院内感染

台東区の永寿総合病院では院内感染により163人が感染し、うち患者20人が死亡しました。
院長は関連を否定していますが、2月に前述の屋形船で感染した人が入院した病院です。
3月20日前後に新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクが発生し、患者、看護師で発熱が多発しました。
連日火消しに追われ、連日感染者数は増える一方でした。4月9日までに入院患者94人、職員69人に感染が波及する結果となりました。

3密

大阪市内のライブハウス4店舗で行われた8つのライブ参加者から83人の感染者が確認されました。
また、スポーツクラブでの感染も確認されました。
3月下旬までにこうした感染事例から、3つの密が共通項として浮かび上がってきました。
3密とは、密閉した空間、人の密集、密接して会話する、です。
多くのスポーツクラブ、ライブハウスなどは休業せざるを得ない状況になりました。

格闘技イベントK-1の強硬開催

そのような中、3月22日に、埼玉県知事から自粛を要請されていた格闘技イベント K-1 がさいたまスーパーアリーナで開催されました。
イベントには約6,500人が観戦しました。
3月24日に観戦者の中から発熱症状が出たという報道がありましたが、続報がないことから2週間以上経過した4月10日現在では、感染者は1人も出ていません。
K-1のイベントでは、入場できる観客を減らし、サーモグラフィによる体温チェック、マスク配布・着用、入場前のアルコール消毒、大声を出すことを禁止などの対策を行いました。

ブックルックチームの新型コロナウイルス感染回避策の紹介 (後編)」に続く

出典

・NIID 国立感染症研究所(2020/2/26)「国内初の新型コロナウイルスのヒト―ヒト感染事例」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/9425-481p02.html

・ Yahooニュース(2020/3/18)「ダイヤモンド・プリンセス集団感染「日本を責めることはできない」クルーズ船検疫の第一人者語る」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200318-00168322/

・ 厚生労働省(2020/3/20)「新型コロナウイルス感染症の現在の状況について(令和2年3月20日版)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10351.html

・ 院長 湯浅祐二(2020/4/9)永寿総合病院ホームページ
http://www.eijuhp.com/user/media/shingatakoronauirusunituiteeijukai.pdf

・ 毎日新聞(2020/2/26)「新型コロナ 屋形船新年会で感染急拡大 関係者以外も確認 都「市中感染前提で対策」」
https://mainichi.jp/articles/20200216/k00/00m/040/154000c

・ 日本経済新聞(2020/3/19)「ライブハウス感染「終息」 大阪府、12日以降確認なし」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56990400Z10C20A3AC8000/

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新型コロナウイルス 東京都 市区町村別 感染者数 分析

東京都が都内の自治体別の新型コロナウイルス感染者数を公表しました。ようやく、です。
個人個人の判断と行動に将来がかかる中、情報の非対称性は可能な限りなくすべきだと思います。

情報の非対称性による弊害

感染源を示すものではないにしても、なんとなくでもどんな状況にあるかが伺えるだけでも随分と違わないでしょうか。
実際に私の周りには、目に見えないウイルスに怯えている人、根拠なく安心しきっている人もいて、人によって認識に大きな違いがあります。中には「インフルエンザと同じなんだから1回かかればいいんだろ」という人もいます。
これはウイルスについての情報の非対称性の現れです。
私はこれはウイルスとの戦いにおいて非常にまずい状態だと思っています。

ホラーやサスペンス映画・ドラマでも観たことがあるでしょう。
未知の生物がやってきたが、「大丈夫、大丈夫、大したことない」と言いながらフラフラ街を歩く人、ひどく怯えて身動きできなくなる人、果敢に敵をやっつけるために考えあぐねる人。
スクリーンを通して観ている私たちは「危ない!」とか「ほら今いけ!」など思うものです。
命を落とす方が出ている中、大変不謹慎な例えと思われる方も多くいらっしゃるかもしれませんが、私たちは今、そういったホラーの中にいます。
次の瞬間、私だけでなく家族、友人、知人、会社の仲間が大きな危険に襲われるかもしれないのです。

スクリーンを通して観ることができれば、より的確な判断ができます。スクリーンを通して観るとは、できるだけ多くの情報を得て考えるということです。

情報共有の必要性

相手は司令塔がいるわけではなく、個々に増殖しようとしているのです。
それに相対する私たちは、個々に十分な情報を持ち、判断、決断、実行しなければ対等に戦うことができません。司令塔の指示をいちいち待ってはいられないのです。
未知のウイルスに対抗するには全員参加、1人1人が自分事として捉え、その場その場での判断、決断、行動が求められます。

点々と勃発するかのようなウイルスの攻撃に対し、政府や都道府県のみが情報を収集・分析し指示を出すような集中管理型では対策が追い付きません。変わり続ける事態を認識、分析、対策の検討、指示をしている間に次の事態が起こってしまいます。
結果的にごく一部の出来事で判断しているに過ぎず、当たれば大きな効果が期待できますが、外せば反対に大きな損失を出しかねません。

東京都 市区町村別 新型コロナウイルス感染者数

さて、東京都が公表した2020/3/31時点の自治体ごとの感染者数ですが、注記があります。

東京都から発表される感染者数については、東京都内で検査を行ったものであり、他の道府県で検査が行われた都民については、含まれておりません。

従いまして、都が発表する「区市町村別患者数(都内発生分)」で示される「八王子=4」が、必ずしも八王子市民の患者総数ではありません。

なお、八王子市在住者が他道府県で検査対象となり、陽性が確認された場合であっても、当該患者が当該地で入院し、行動歴等から八王子市内での疫学調査の必要性がないと判断された場合、八王子市保健所には報告されないこともあり得ます。

八王子市 ホームページ( https://www.city.hachioji.tokyo.jp/emegency/007/p026487.html

東京都が公表した情報を グラフにすると世田谷区、港区、杉並区、品川区、新宿区、目黒区と人が集まるような区部が多いことが分かります。一方、市部は区部に比較して少ないこともわかります。
しかし、人口が違うのですから当然かもしれません。人口をデータに取り入れて分析してみます。

人口100万人あたりの感染者数をグラフにしてみると、ダントツ1位だった世田谷区が後退し、港区が1位に、中央区が2位になります。
そして、感染者数のグラフでは目立たなかった羽村市が上位に入ってきました。
区部に比べて人口が少ないのはわかりますが「それだけではない」と思いました。もし家の中に感染者がいたら、他の家族も罹患してしまう

1世帯あたりの人数のグラフと重ね合わせてみます。
思った通りの結果です。羽村市は1世帯当たりの人数が多いです。西東京市、三鷹市も同様です。
言うまでもありませんが、家族や友人と一緒に暮らしている人は一層注意しなければなりません。1人が感染したら家族全員が感染したも同然です。

もう1つ特筆すべきが、区部である板橋区、荒川区、北区、江戸川区、足立区、葛飾区の感染者数が少ないことです。比較的コロナ対策が施されている地域と言えます。

さらに年代別、性別に分析するとまた別の事実が浮かび上がるでしょう。

感染者ゼロの自治体

グラフにない自治体は感染者ゼロですからもっとも徹底されているといえます。
立川市
昭島市
東村山市
国分寺市
国立市
福生市
狛江市
清瀬市
武蔵村山市
多摩市
あきる野市
瑞穂町
日の出町
檜原村
奥多摩町
大島町
利島村
新島村
神津島村
三宅村
御蔵島村
八丈町
青ヶ島村
小笠原村

引用

・東京都の統計「住民基本台帳による世帯と人口 令和2年3月
・ 東京都「新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(第144報)
・八王子市 ホームページ

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新型コロナウイルスとの戦いには「衛生のロジスティクス」が鍵 -第3次世界大戦 ヒト対新型コロナウイルス- (2020/3/24)

新型コロナウイルスとの戦いには「衛生のロジスティクス」が鍵 -第3次世界大戦 ヒト対新型コロナウイルス-

16,563人(*1)
新型コロナウイルスによって奪われた人の数である。
世界のあちこちで戦いの火ぶたが切られ、今のところヒトは防戦一方である。
一方でテレビではオリンピックの開催日や経済対策に話題が移っているが、まだウイルスとの直接対決は終わっていないのである。

一刻も早く日常を取り戻すには、ワクチンを待つだけでなく、できることがあるのではないか。
それは衛生のロジスティクスである。ウイルスと最前線で戦っているヒトを最大限支援するためのロジスティクスである。
ヒトが持てる武器は、除菌のための消毒液や予防のマスクだ。その他ウイルスにやられないためのノウハウなども供給し続けて欲しい。

2月下旬、昼休みにランチを買いにコンビニエンスストアに入ろうとしたら、12ロール1セットのトイレットペーパーを手に持ちきれないほど持って出てきた中年男性とすれ違った。
そんなにたくさんのトイレットペーパーを何に使うのだろうかと疑問に思ったが、それ以上は考えずそのままその日を過ごした。

翌日、トイレットペーパーに人々が殺到し、品不足になっているとニュースでやっていた。どうもネットの間違った情報発信から拡散したことが原因らしいという。
その時、昼休みに見かけた「トイレットペーパーの男性」のことを思い出し、「ああ、なるほど」と理由が分かった。

それから数日間経ってもトイレットペーパーの品薄状態は解決する兆しが見られなかった。
ニュースでは再三「トイレットペーパーのほとんどは日本製だし、倉庫にこんなに山積みになっているんだから大丈夫です」と喧伝していたが、効果は認められない状態が続いている。

なぜならば、これはロジスティクスの問題なのだから。
実際、トイレットペーパー騒動が始まってから3週間以上経った今もまだ解決されていない。

日本でトイレットペーパーを製造できなくなることや、現在の在庫がゼロになってしまうことや、海外からも輸入できなくなってしまうといったことを心配している人はほとんどいないだろう。
また漫然とした将来の不安からトイレットペーパーを買いだめしているわけでもないだろう。

多くの人が心配していることは、必要な時にトイレットペーパーが供給されないことではないだろうか。言い換えれば、トイレットペーパーのロジスティックスに不安があるため、各自あるいは、各家庭がロジスティクスの役割の一部を担うに至ったのである。

ロジスティクスとは、もともと軍隊で使われていた用語である。計画に従ってヒトやモノを調達、管理、補給する一連の活動のことである。
最前線で戦っている部隊に、武器や戦闘人員だけでなく、食料や医療なども適切なタイミングで絶え間なく補給し続けることがロジスティクスである。
敵と自身の力が互角ならば、ロジスティクスが先に途絶えた方の負けになる。

第2次世界大戦はロジスティクスの戦いだったとも言われる。いかに製造、在庫、運搬を維持するか、いかに相手のロジスティクスの要所を破壊するかが重要になったという。
そして日本の敗戦または長引いた戦いは、ロジスティクスを無視したことが最大の理由であったという。大変興味深いことだが、第1次世界大戦のときには、局所での戦略戦術、リーダーシップが結果を左右したことと対比すれば、点よりも面の戦いと言える。

トイレットペーパーに話を戻すと、確かにネットのデマに乗ってしまった最初の人たちは、製造や輸入の不安から行動を起こしたのであろうと思う。
しかしその直後「製造は問題ない、在庫もたくさんある」とテレビでやっているのを見ながらも、トイレットペーパーを買い求めた人たちがもっとたくさんいた。それはテレビを信用していなかったわけではなく、倉庫から家庭までのロジスティックスがない、あるいは脆弱だとの認識からとった行動であろうと思う。
家庭を清潔に保つためにはトイレットペーパーが欠かせない。そのトイレットペーパーは製造は問題ない、倉庫に在庫することも問題ない。しかし、倉庫から家庭までは約束された供給ラインが存在しないのである。だから自分が第2の倉庫となりストックしておくことで、家庭までの確実な供給ラインを確保するに至ったのである。

いまだ解決しないマスク、生理用品、消毒液の供給不足も含めて考えれば、新型コロナウイルスとの戦いは「衛生のロジスティクスの戦い」とも言える。
新型コロナウイルスと戦う家庭に、戦いに必要な物資が十分に届けられていない。だから皆、じっとしているしかないのだが、いつまでもそうしているわけにはいかない。全てを誰かが供給してくれないことも知っている。特に生活費、学費などすぐにでも自分が必要なものを手に入れるべく活動しなければならない。
せめて衛生のロジスティックスが盤石であれば、人々の活動の多くを抑制する必要性も低下するだろう。

ここに台湾の事例(2)がある。 ただし、成功事例と言うにはまだ早いだろう。CSSE(1)によると3月24日現在、感染者数が日本は1,128人、台湾は195人。人口比でみると日本より10%少ない。

台湾では新型コロナウイルスに関する情報が出回り始めた2019年12月ごろからマスクが徐々に店頭からなくなり、翌年1月には完全になくなってしまったというが、2月上旬にはマスクのロジスティックスを確立したという。
政府がマスクを買い上げ、輸出を停止し、販売経路を薬局に限定し、どこに何枚マスクがあるのかを管理できるようにした。さらに1人が購入できるマスクの数量を制限し、購入しようという人には保険証の提示を求めた。
特筆すべきは、マスクがどの薬局に何枚あるのかをホームページで公開したことだ。これにより不安を解消し安心も提供することができたのだ。マスクマップも提供され、市民は盲目的にマスクを求め歩かなくてもよくなった。
2月上旬に台湾に行ってきた人によると、「こんな時期に中国大陸からやってくる人も多い台湾にいくなんて」と言われたが、実際には衛生の戦いは台湾の方が日本よりも大きく勝っていたという。
多くの人がマスクを付け、商業施設やホテルの入り口では体温検査と手の消毒が徹底されていたという。
なので、帰国したときには世間の無防備さに身の危険を感じるほどだったそうだ。

ある時点では自粛も有効だろうが、長い戦いにおいては衛生のロジスティクスが最重要である。
日本は幸いにして水の供給は十分である。じゃぶじゃぶ使える。これは本当に感謝すべき貴重なインフラである。
だからといって単に手洗いとうがいだけというのは原始的過ぎるし、人との接触を避ける世界は無味である。
人々が従来の活動を止めることなく、新型コロナウイルスに打ち勝つ方法は、衛生維持のためのあらゆるロジスティクスの確立が今求められている。

出典:
*1: Coronavirus COVID-19 Global Cases by the Center for Systems Science and Engineering (CSSE) at Johns Hopkins University
(https://gisanddata.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/bda7594740fd40299423467b48e9ecf6)

*2:「大混乱を回避、台湾の知られざるマスク事情 政府が買い上げ、マスクマップで在庫確認」東洋経済ONLINE
(https://toyokeizai.net/articles/-/334652)