Daniel Goleman (1995), EMOTIONAL INTELLIGENCE-Why it can matter more than IQ : . (土屋京子訳 (1996) 『EQ―こころの知能指数』 講談社。)の紹介。
私はこの本を読んで「やっぱりそうだ」と思った。そして少し安心したと同時にその課題に取り組むことの難しさを痛感した。内容が非常に濃いので、私なりのsummaryは数回に分けて書こうと思う。 |
IQが非常に高く、東大を卒業し、勤務先で出世し、収入も多いのに暴力事件を起こしたり、ひどい場合には殺人事件にまで至るケースがある。そういった事件を起こさなくともIQ (intelligence Quotient) が高い人が必ずしも成功せずに、平均的なIQの人が大成功するケースが多々ある。つまり、「IQが高いからといって必ず幸せになれるわけではない」のである。このことに多くの方は経験的に同意するであろう。
現代の学校教育におけるmetricはIQである。場合によっては家庭における教育の中心にもIQがあるのではないだろうか。必ずしもIQが人生の成功を導くわけではないことを知っていながら、幸せになるためにIQに頼っているのである。
さらに重大な事実は犯罪の増加傾向である。子どもの犯罪も増加している。感情を抑えきれずに、他人も自分も傷つける凶悪な犯罪である。この背景には教育に欠けているものが見え隠れしている。
社会は個人にとってのインフラである。犯罪が多発しているインフラの上で個人の成功や幸せはあり得ない。今は良くても次の瞬間犯罪に巻き込まれるかもしれない状態なのであるから。
これらの問題に対するキーワードはEQ (Emotional Quotient) である。
EQのEはEmotion(情動)である。情動という言葉はもともと行動に結びつくニュアンスを含んでいる。
情動は特定の行動パターンに結びついている。これを情動反応と呼ぶ。
動物の情動反応はすなおである。敵が襲ってきたと判断すればすぐさま攻撃態勢をとるし、目の前に現れたものが獲物であると判断すればただちに捕捉しにかかる。情動がそのまま行動に表れる。
動物の中でもヒトだけは情動がすなおに行動につながらず変則的な表れ方をする。これはヒトならではの脳の働きの違いによるものだ。しかし、情動に支配され、他の動物と同じくすなおな情動反応をおこしてしまうことがある。情動のハイジャックがおこったときだ。
情動のハイジャックは扁桃核と関係がある。扁桃核とは大脳辺縁系の底辺に左右にひとつずつあるアーモンドの形をした神経核である。
扁桃核の理解を進めるために、ヒトの脳の進化、構造、動作を説明する。(次回に続く)