成長戦略とは文字通り、成長する戦略である。では何を成長させるのであろうか。
それは、従業員の生産性と創造性である。
通常は売り上げの増加を指標とする。たとえば、対前年比で売上高を20%増加させる、といったものだ。
すぐにできる売上高を増加させる方法は、製品単価をあげる、販売数量を増やす、のどちらかか両方である。
製品単価をあげるよりも販売数量を増やす、つまり市場シェアを上げることが目標になる。通常は競争相手がいるので製品単価をあげることが難しいからだ。
シェアを上げるにしたがって利益が圧縮される。市場占有率を上げるにはマーケティングが欠かせない。ターゲットの範囲が広くなればなるほどマーケティングコストは増加する傾向にある。ロジスティクスのコストも増加する。競争が激しい市場であれば、製品単価を下げていく圧力が大きくなる。
その結果、費用のさらなる削減も必要になる。
では、どの費用を削減したらよいだろうか。費用には固定費と変動費がある。
簡単に言えば、固定費は生産の有無に関わらず発生する費用。変動費は生産量の増加に伴って増加する費用。よって固定費は削減できない。変動費の削減、製品原価を下げることである。
ここで注意したいのは、費用に人件費を含めて考えないことだ。人件費を固定費としてとらえると、減給、人員削減が必要になる。変動費としてとらえると生産性の向上が必要になる。減給は従業員のモチベーションの低下を招くだろう。シェアをあげようとしているのに人員削減をしたら、シェアの維持はできてもあげるのは困難であろう。むしろそれは「成長」ではなく、「縮小均衡」へ向かう。
ガッツだけでは生産性の向上は一時的に、一定のところまではあがるだろうが、長期的にがむしゃらに働くにもパワーの限界がある。従業員の疲弊を招きかねない。
ここまでの話しでは、成長戦略は決してよい選択ではないように思えるかもしれない。
実は、売上を増加させる別の方法もある。市場を創造することである。市場を創造するとは、既存の市場規模をもっと大きくすることや、新たな市場を作り出すことである。T型フォードは富裕層だけの娯楽であった自動車を大衆に広め、自動車市場を拡大した。ソニーのウォークマンはポータブル音楽プレイヤー市場を新たに創った。
これらの話しは、企業が人に投資した結果ではないかも知れない。でもそれを実現させたのは人である。企業に入る前の人生経験が役立ったのかもしれない。経験も投資のひとつである。
市場創造のためには投資が必要である。企業は人が為すことで成り立っているわけだから、人に投資することが最も効果的である。前述の費用に人件費を含めて考えないというのはこのためだ。
「人件費は費用ではなく投資とらえる」のである。だからチェックすべきは投資にみあったリターンが得られているかどうか、である。リターンが得られているのであれば人件費は相場より高くても何も問題はない。
リターンとは従業員の成長とそが何らかの形で業務に影響を与えることである。投資に対してかならずしもすぐに結果が現われるわけではない。だから慎重に、長期的に見る必要がある。それでも確実に従業員が自分の成長や同僚上司部下の成長を実感できることが重要である。自分の成長が実感できればモチベーションが高まる。その上でさらに他人の成長を目の当たりにすると負けてはいられないと思う。無理なく切磋琢磨される。このような従業員がたくさんいるから、常に全員ががんばらなくてもよいと思う。時にはゆっくり休んで英気を養い。しばらくしたらまたがんばる。こんな会社、楽しそうではないですか?
人の成長によって、労働生産性をあげる、パラダイムの転換(考え方をかえること)を促す、イノベーションを誘発することが可能であろう。
ところで、既存業務の効率化を行おうとすると官僚的な組織にならざるを得ない。成熟市場であれば官僚制がもっとも利益率が高い。官僚制は最も効率的な制度であるからだ。しかし、創造性はない。
効率化を徹底して図ろうとすれば、既存業務の定型化、プロセス化を進めることになる。しかも全員がそれらに従ってもらわないと意味がない。2者間で、決まりきった、創造性が必要ない仕事が大量にある場合は、業務プロセスが明確化されている方がよい。
しかし、依頼が創造的なものである場合、既存の業務プロセスでは処理できない場合がある。依頼される側は決められたフォーマット通りにすべての情報を要求するが、フォーマット通りに入力することができなかったり、情報がすべて揃っていないまたは必要ない場合がある。その場合でもフォーマット通りに進めることを強いる。つまり、創造的な仕事をいかに既存の業務プロセスで処理するかが課題となり、前例にない(決められていない)ことは削っていくことになるのである。その過程で創造的なものは既存化されていくのである。または、依頼者が面倒を嫌って仕事が消滅するのである。
つまり、業務の効率化に重点を置きすぎないで、人に投資して市場の創造を目指すことが、成長戦略における戦術である。
もしあなたが勤める会社が成長戦略を選択しているにもかかわらず、市場創造がみられないならば、人への投資が効果的になされているか確認すべきである。人へ投資しているのに市場創造がない場合は、投資の仕方がヘタなのであろう。人への投資もない場合は成長戦略は絵に描いたもちとなるであろう。